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メディア選択のための SECTIONS モデルの第5の要素はインタラクションです。様々なメディアはどのようにインタラクションを可能にするのでしょうか。インタラクションの「アフォーダンス」は極めて重要です。これまで圧倒的な量の学術研究面での証拠により、学生が学習に「積極的」であるときに最も学習効率が高くなることが示されているからです。しかしこれは何を意味するのでしょうか。アクティブ・ラーニングを支援する上で、新しいテクノロジーはどのような役割を果たす、あるいは果たしうるのでしょうか。
8.6.1. 学習者のインタラクションの種類
学習時に学習者が行うものとして、3つの異なるインタラクションが区別されていますが、 (Moore, 1989) それぞれ必要になるメディアとテクノロジーの組み合わせが多少異なってきます。
8.6.1.1 学習教材とのインタラクション
これは学生が、教科書や学習管理システム、短いビデオ・クリップなどの特定のメディアで、教員や他の学生の直接の介入なしに作業するときに生じるインタラクションです。このインタラクションは、はっきりとした行動を伴わない「内省的」なものもあれば、多肢選択テストなどのように評価された回答という形で、あるいはディスカッションへの貢献という形で、または記憶や理解を助けるメモとして「観察可能」なものもあります。
コンピュータ技術により、学習者と学習リソースとのインタラクションを大いに促進することができるようになりました。自己管理型オンラインテストでは、対象分野の理解度や範囲について、学生にフィードバックを提供できます。このようなテストでは学生がつまずいているトピック分野について教員にフィードバックを提供することもできますし、また学生の理解度について、評価にも使うことができます。学習管理システムに組み込まれている標準的なテスト用のソフトウェアを用いることで、学生の評価や、コース教材の理解度にもとづく成績評価が自動的に行われます。より高度な活動として、楽譜を音声に変換するソフトウェアを使った作曲や、オンライン・シミュレーションを用いて概念をテストするためのデータ入力、あるいはコンピュータ制御によるゲームや、意思決定シナリオへの参加などもあり得ます。このように、コンピュータが管理する学習者とのインタラクションは、概念や手順の把握や理解を深めるのに特に適しています。しかし分析や統合、批判的思考といった高次の学習スキルの養成を行うためには、何らかの人的介入がないと難しいといった制約があります。
コンピュータが管理する学習以外にも、学習者と教材の間のインタラクションを容易にする方法はあります。この教科書もそうですが、教科書には執筆者が設定した活動を含めることができますし、用意された読み物についての学生の活動を教員があらかじめ準備しておくこともできます。他にも学生の活動としては、例えば学習管理システムに書き込まれた文字情報の読解や動画の視聴、構造化された手法によるWebベースの教材の検索や分析、eポートフォリオ作成のためのWebからの情報のダウンロードや編集などが挙げられます。このような活動は評価対象になる場合とならない場合がありますが、特にオンラインで勉強している学生の場合、評価対象になる方が、より活動に集中する傾向があることが示されています。
言い換えれば、優れた設計と十分な素材があれば、テクノロジー主体の教育では、学生と教材の間での高いレベルのインタラクションを可能にします。学生と教材とのインタラクションの可能性を最大限に活用することは、経済的に大きなメリットがあります。このインタラクションが密になると、学生は学習に費やす時間が長くなり、学習効果が高まる傾向があるからです。(Means et al., 2010を参照) おそらくもっと重要なのは、このような活動がうまく設計されていれば、教員が個々の学習者とのやり取りに費やす時間を減らすことができるということです。
8.6.1.2 学習者と教員とのインタラクション
その一方、分析、統合、批判的思考など、高次の学習成果の多くを達成するために、学生と教員のやり取りが必要になることはよくあります。これは学問的な学習を発展させるためには特に重要です。学生は見解に対して疑問を投げかけ、理解を深めることが求められます。このため多くの場合、教員と学生グループの間での対話や問答が必要になります。したがって教員の役割は、対面のセミナーやオンラインの協働学習などにおいて非常に重要になります。
オンラインのディスカッション・フォーラムなどのテクノロジーの中には、離れた場所にいる学生と教員が、このような対話や問答を行うことができるものもあります。しかし学生と教員のインタラクションの主な制約は、教員に対する時間的負担であり、規模拡張がなかなかできないことです。
8.6.1.3 学生同士のインタラクション
質の高い学生同士のインタラクションは、対面型学習、オンライン学習のいずれの状況でも、同じように提供することができます。学習管理システムに組み込まれた非同期のオンライン・ディスカッション・フォーラムを利用することで、この種のインタラクションが可能になります。また、結合主義的なMOOCsや実践コミュニティでも学生同士のインタラクションができます。
しかしここでも同様に、その質は設計の良し悪しにかかっています。オンラインでも対面型でも、単に学生をグループにまとめただけでは、積極的な参加や質の高い学習にはつながりません。コース内のディスカッションの教育的な目標や、ディスカッションのトピック、そしてそれらがどのように評価や学習成果と関連づけられるかについて、慎重に検討する必要があります。また、自発的な話し合いができるよう、教員は学生にしっかりと準備させる必要があります。(詳細についてはセクション4.4を参照。)
そして教員やコース設計者は、テクノロジーを多用する学習環境では、これら3つのタイプのインタラクションの最適な組み合わせを決めることが重要です。その際、認識論的な見方や、学生と教員に使える時間、そして期待する学習成果も考慮する必要があります。テクノロジーを使うと、これら3つのタイプのインタラクションの全てができるようになります。
8.6.2 メディアとテクノロジーにおけるインタラクションの特徴
上記で概観した3つのタイプのインタラクションは、それぞれ異なるテクノロジーによって強化されたり、あるいは抑制されたりします。インタラクションは様々なメディアやテクノロジーで行うことができますが、ここでも再びインタラクションの特徴を見ていきましょう。インタラクションの特徴は、メディアやテクノロジーが教育に用いられた際に、利用者にどの程度まで能動的な反応が必要とされるかという点で、3つの構成要素に分けられます。
8.6.2.1 内在的なインタラクション(双方向性)
メディアの中には内在的に学習者の「アクティブ」な反応を「プッシュ」してくるものがあります。その一例に適応学習があり、学習者が次の段階に十分に進める程度にまで学んだかどうかを確認するための、あるいは矯正策としてどのような学習が必要なのかを確認するためのテストとのインタラクションを経ないことには(受けないことには)次の段階へは進めないというものです。行動主義的なコンピュータ利用型の学習では、学習者に反応を強いるものなので、内在的なインタラクションが行われています。学習者がどのように反応するかを制御するテクノロジーは、行動主義的な教育法や学習法と関連づけられることは珍しくはありません。
8.6.2.2 設計されたインタラクション(双方向性)
メディアやテクノロジーの中には、本来は双方向的ではないものもありますが、学習者とのインタラクションを促進するように明示的に設計することができます。例えばWebページは本来、双方向的ではありませんが、コメント・ボックスを追加したり、ユーザーに情報入力や選択を求めたりすることで、双方向的になるよう設計することができます。特に教員は、特定のメディア内で練習問題を追加したり提案したりできます。例えば、学生にポッドキャストの内容に沿った練習問題を行わせるために、数分ごとにポッドキャストを停止するよう設計することができます。これはWebページの場合と同様に、教科書に練習問題を含める際にも適用できる方法です。
しかし多くの場合、教材を中心に練習問題を設定したり、適切なフィードバックを与えたりするためには、メディア単独でなく教員の介入が必要になるため、教員に必要な作業時間は減るというよりもむしろ増えることになるでしょう。したがって練習問題の設計やフィードバックで介入しなければならない分、教員のコストすなわち必要な作業時間は、他の2つのタイプのインタラクションが使われる場合よりも大きくなりがちです。
8.6.2.3 学習者が生み出すインタラクション(双方向性)
メディアによっては明示的なインタラクションが組み込まれていないものもあります。それでも学習者(エンド・ユーザー)は自発的に、認知的な、あるいは何らかの物理的な反応によって、メディアとのインタラクションを行うことがあります。例えば、アートギャラリーにいる人は、特定の絵に対して認知的または感情的に反応するかもしれません。(ちらっと目を向ける人や、注意を向けなかったりする人もいるかもしれませんが。)学習者の中にはその絵をスケッチしたくなる人もいるかもしれません。学習者の中には小説や詩を読む場合と同様の反応する人もいるかもしれません。その作品の作者は実際、意図的に省察や分析を促すようにデザインすることもあるかもしれませんが、その場合、作品の解釈は明示的には示されず、解釈は鑑賞者や読者に委ねられます。(これはもちろん構成主義的な学習法です。)教員の介入なしに学習者が自発的に活動することを促すメディアはコスト面で利点があります。ただしインタラクションの質をモニターしたり、評価したりすることは困難になるでしょう。
8.6.2.4 誰がコントロールするのか
インタラクションのもう1つの特徴はコントロールです。テクノロジー、製作者や教員、あるいは利用者や学習者はどの程度までインタラクションをコントロールする、あるいは可能にするのでしょうか。これは複雑な側面であり、認識論の立場や、教員側の設計上の決定からも影響を受けます。この種のインタラクションは、決して固定的ではなく、同じメディアやテクノロジーを利用する場合でも、様々なレベルやタイプが考えられます。インタラクションは最終的には期待される学習成果と結びつく必要があります。ある特定のタイプの学習成果に最もつながりやすいのは、どのようなインタラクションでしょうか。そしてそのようなインタラクションを提供するのに最も役立つのは、どのようなテクノロジーあるいはメディアでしょうか。
8.6.3 インタラクションとフィードバック
フィードバックはインタラクションの重要な一面であり、効果的な学習には、学習者の活動に関する即時かつ適切なフィードバックが不可欠です。では、ある特定のメディアを利用した場合に、フィードバックはどの程度まで可能でしょうか。例えば、学習者は本の中の詩に積極的に反応するかもしれません。しかしそのインタラクションについてのフィードバックをその読書活動のみから得ることは、通常では不可能です。むしろフィードバックを提供するためには、対面型での詩の授業や、オンラインのディスカッション・フォーラムなど、他のメディアを用いる必要があります。
一方、コンピュータ利用型の学習では、学生が多肢選択問題に答えると、コンピュータはその問題に得点をつけ、ほぼ即座にフィードバックを与えることができます。しかし、印刷メディアなどのようなテクノロジーを用いた場合、学習者の活動について適切な、あるいは即時のフィードバックを与えることは困難、もしくは不可能でしょう。模範解答や正しい考え方を別のページに文章で与えることはできるかもしれませんが、印刷メディアを用いる際、活動に関する良質のフィードバックは教員が提供しなければなりません。
このようにメディアやテクノロジーは、様々な種類のフィードバックを提供できるかどうかという点でも異なります。教育的観点から考えると、どのようなフィードバックが最も効果的である可能性が高いか、また、そのフィードバックをどのように提供するのが最も効果的かについて、明確にしておくことが重要です。例えば、自動化されたフィードバックが適切なのはどのような状況下でしょうか。また、フィードバックを教員や指導助手が提供すべきなのはどのような場合なのでしょうか。
8.6.4 様々な教育メディアによるインタラクションを分類する
表8.6.4は、様々な教育メディアによるインタラクションを、2つの軸に沿って分類したものです。一方の軸は学習者によるインタラクションのタイプで、学習者と教材(Learner-materials)、学習者と教員(Learner-teacher)、学習者同士(Learner-learners)という分類です。もう一方はメディアの特性で、インタラクションがメディアに組み込まれているのか(Inherent)、意図的な設計によって追加する必要があるのか(Designed)、あるいはインタラクション方法の決定が学習者に委ねられているのか(Learner-generated)という分類です。
それぞれのメディアの援助を受けることによって生じる学習者の活動のタイプに基づいて、交差する箇所にメディアをいくつか割り当てています。しかしここに挙げたメディアの中には、教員による設計の決定次第で、実際の場所が変わってくるものもあります。例えば、ポッドキャストは、何らかの活動を伴うように設計された場合(Designed)、その意味や当該コースにおける目的の解釈が学生に委ねられているものや、学生が作成する場合(Learner-generated)の場合、そして単なる音声メディアとして利用する場合もあります。また、あるメディア(ポッドキャストなど)が活動の引き金となったとしても、実際の活動やフィードバックはオンライン評価など、別のメディアで行われる場合もあるかもしれません。
8.6.5 まとめ
このように、メディアやテクノロジーは、インタラクションの観点から分類しようとしても、多少つかみにくい場合があることが分かります。メディアの実際の利用方法は教員や学習者が選択することが多く、そのメディアで学習者へのインタラクションやフィードバックがどのように発生するかにも影響するからです。したがって、ここでもやはりインタラクションの内容を設計する際の質は、その活動を可能にするメディアの選択と同様に重要になります。そして不適切なテクノロジーを選択すると、活動のレベルやインタラクションの質が下がるかもしれません。実際、教員や学習者は、質の高いインタラクションを確実に行うために、いくつかのメディアやテクノロジーを組み合わせて利用することもあります。しかし異なる複数のメディアを使うことは、教員と学習者の両方のコストと作業負荷を増やす可能性が高まります。
繰り返しになりますが、どのメディアやどの特性が「最高のインタラクション」を提供するかという点について、私からの評価的な判断はありません。メディアの選択は、指導の文脈全体の中で、教員が重要と判断した活動のタイプに基づくべきだからです。ここでの分析の目的は、異なる種類のインタラクションを作り出したり促したりする際、教育用メディアの間の違いに敏感になり、十分な知識に基づいて判断できるようになってもらうことです。ただしこの場合も、インタラクションの点から言うと、メディアやテクノロジーの中で「明らかな勝者」は存在しません。テクノロジーの選択よりも設計上の決定の方が重要であることが多いのです。とは言え、テクノロジーによって、教員がそばにいない学習者にも質の高い活動やフィードバックを与えることができるようになりますし、テクノロジーを適切に用いることにより、学習者の活動をサポートできますので、学習者が課題に取り組む時間を増やすことにもつながるでしょう。
8.6.6 検討すべき質問
- あなたが養成しようとしているスキルに関しては、どのようなインタラクションが最も有用でしょうか。その種のインタラクションを促すには、どのようなメディアやテクノロジーが利用できるでしょうか。
- あなたの時間の有効利用という点から考えると、学習者の理解やスキル養成と、個々の学習者と直接あるいはオンラインでやり取りする時間とのバランスをうまくとるためには、どのような形でのインタラクションがよいでしょうか。
アクティビティー 8.6 学習者の活動を促すメディア利用
- YouTube にアクセスし、検索ボックスにあなたが学習させたい分野を入力してください。
- 表示された動画一覧から、学習者に視聴を勧めたい動画を選択してください。
- その YouTube の動画について、学習者にはどのようなタイプのインタラクションが必要でしょうか。それは、学習者に何らかの形での応答を強いるものですか。(内在的なインタラクション)
- 学習者自身がその動画に反応するとすれば、どのような形の反応が考えられるでしょうか。例)メモを取る、練習問題を解く、その話題について考える(学習者が生み出すインタラクション)
- YouTube の動画を見た後で学習者が行うものとしては、どのような練習問題を提案できるでしょうか。(設計されたインタラクション)その練習問題は、どのようなタイプの知識やスキルを身に付けるのに役立つでしょうか。また、学習者は、その練習問題に取り組む際、どのようなメディアやテクノロジーを利用するでしょうか。
- あなたが設定した練習問題について、学習者はどのようにフィードバックを受けることになるでしょうか。あなたや学習者は、どのようなメディアないしテクノロジーを使って、学習者の活動についてのフィードバックを与えたり受け取ったりするでしょうか。
- この練習問題のために必要になるあなたの作業量はどのくらいでしょうか。その作業は無理なく処理でき、行う価値があるものでしょうか。その練習問題は、より多くの学習者向けに拡張できるでしょうか。
- 当該の YouTube 動画を使いながら、視聴者や学習者が行う、より多くの優れた練習問題を作成するためには、どのような設計が考えられるでしょうか。
参考文献
Means, B. et al. (2009) Evaluation of Evidence-Based Practices in Online Learning: A Meta-Analysis and Review of Online Learning Studies Washington, DC: US Department of Education
Moore, M.G. (1989) Three types of interaction American Journal of Distance Education, Vol.3, No.2