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実際のところ、上記のタイトルは包括的であり、この中には、経験的学習、協働学習、冒険的学習、徒弟制といった、様々なアプローチや専門用語が含まれます。このように多岐にわたる実践的な学習へのアプローチを含む大きな傘のような概念として、ここでは「経験的学習」という言葉を用いることとします。

3.6.1 経験的学習とは何か

この領域では、John Dewey (1938) 、そして最近では David Kolb (1984) といった、様々な多くの理論提唱者がいます。

サイモン・フレイザー大学では、経験的学習を次のように定義します。

実践を通して学ぶ機会に学生が戦略的、積極的に関与し、その活動を振り返ること。そうすることで、教室内外の多くの状況において、学生が理論的な知識を実際に使ってみる力をつけさせることができる。

現実世界の状況の中に学習を埋め込むことを目的とした様々な設計モデルには、以下のようなものがあります。

  • 実験室、作業場、アトリエでの実習
  • 徒弟制
  • 問題解決型学習
  • 事例に基づく学習
  • 研究課題に基づく学習
  • 探求に基づく学習
  • 協働学習(職場あるいはコミュニティを基盤とする学習)

ここでは経験的学習を設計し提供していくための主な方法の中でも、特にテクノロジーの利用に関するものに重点を置いた議論を進めていきます。なぜならこれはデジタル時代に必要な知識をつけるために必要だからです。(より詳細な分析については、Moon, 2004 を参照。)

3.6.2 中核となる授業設計の原則

経験的学習が重点を置いているのは、実際的な専門技術を得るばかりでなく、概念的な洞察を得るために学習者が何かを実践した経験を自ら振り返るという点です。Kolbの経験学習モデルは、次の4つの段階があることを提案しています。

  • 能動的実験
  • 具体的経験
  • 内省的観察
  • 抽象的概念化

経験的学習はカナダ・オンタリオ州のウォータールー大学における主要な教授形態です。大学のWebサイトには、Association for Experiential Education による経験的学習が効果的に働く条件が列挙されています。ウォータールー大学では20,000人以上もの学生が経験的学習プログラムで学んでいます。

トロントにあるライアソン大学も経験的学習が広く使われている教育機関です。この詳細を説明したWebサイトもあり、教員向けとしても使われています。次のセクションでは、上記の4つの原則が適用される様々な方法を検討することにします。

3.6.3 経験的設計モデル

経験的学習には様々な設計モデルがありますが、共通する特徴もたくさんあります。

3.6.3.1 実験室、作業室、アトリエでの作業

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Figure 3.5.3 Concordia University wood shop
図3.6.3.1 コンコルディア大学(モントリオール)木材加工実習室

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今日では実験室での授業は、科学や工学の教育には欠かせないことが当然であると考えられています。また、作業室やアトリエは、職業訓練の多くの形態や、創造的芸術の発達のためには非常に重要であると考えられています。実験室、作業室、アトリエでの学習には、以下のような重要な役割や到達目標があります。

  • 学習者に対し、一般的な科学装置、工学機器、工作機械を適切に選んで利用する実践的な経験をさせること。
  • 科学、工学、産業工具、創作材料を使うための運動スキルを発達させること。
  • 学習者に対し、室内での実験の利点や限界を理解させること。
  • 科学、工学、工芸の作業の「実際の姿」を、学習者が見て分かるようにすること。
  • 学習者に仮説を検証させること、あるいは実験室の条件下で試した場合に、概念や理論、手順がどの程度うまく実際に機能するかを見られるようにすること。
  • 実験を計画したり行なったりする方法を学習者に教えること。
  • 学習者が様々な材料を使って物や器具を設計して創り出すことができるようにすること。

実験室での授業が持つ教育的に重要な価値としては、学習者が具体的なもの(現象の観察)から抽象的なもの(現象の観察から得られる原理や理論の理解)へと進んでいくという点があります。また、実験室での学習によって、学習者は科学や工学が持つ、きわめて重要な教理上の解釈に触れることになります。つまりいかなる考えであっても、それを「真実」と見なすためには、厳密に定められた方法にしたがって検証しなければならないとする考え方です。

昔からある教育用の実験室や作業室での教育に対しては、科学者、技術者、職人が今日必要としている設備がなく、経験できることが限られているという大きな批判があります。科学装置、工学機器、工作機械がだんだんと複雑で高価なものになるにつれて、特に中等教育の学校以下では、こうした装置などに学習者が直接触れることは、ますます難しくなっています。そして現在では、大学でさえもそうなっているのです。さらに言えば、昔からあるような教育用の実験室や作業室には大きな投資が必要であり、規模を変更することは簡単にはできません。これは教育の機会を素早く拡大するのには非常に不利です。

実験によって科学を教えることは既に確立されていますが、歴史的に見れば、比較的最近になって発展したものであることは念頭に置いておくべきでしょう。1860年代には、オックスフォード大学もケンブリッジ大学も実証的に科学を教えようとはしていませんでした。そこでトーマス・ハクスリーは、王立鉱山学校(かつてはロンドン大学の系列の専門学校の1つ、のちにインペリアル・カレッジ・ロンドンとして独立)で、学校の教員を対象とする科学教授法の専門課程を開発しました。その教育内容には実験科学を学生に教えるための実験室の設計方法も含まれていました。この教授法は学校や大学で今でも最も広く用いられています。

しかし同時に、19世紀以来の科学や工学の進歩により、科学的な検査や妥当性の検証のための別の形態が開発されました。少なくとも学校や大学ではほとんど見かけることがない実験室、例えば、原子核加速器、ナノテクノロジー、量子力学、宇宙探査などのための実験室です。このような場面では、現象を観察したり記録したりするには遠隔操作やデジタル技術を使うよりほかありません。また、実験室、作業室、アトリエで行う作業の目的を明確にしておくことが重要です。遠隔ラボやシミュレーション、経験的学習のような新しい技術を使った方が、実用的、効率的、効果的な方法で同じことができるかもしれないからです。しかしこのような新しい技術の詳細については後ほど検討することにしましょう。

3.6.3.2 問題解決型学習

問題解決型学習(problem-based learning、以下PBL)として体系化された最も初期の形態は、1969年にカナダのマクマスター大学医学部のハワード・バローズらが開発したもので、次第に他の多くの大学や小中高の学校へと広がっていきました。この手法がますます多く使われるようになっている領域では知識基盤が急速に拡大しており、学習者は限られた期間の学習では全ての知識を身に付けることができません。学習者はグループで作業しながら、既に知っていること、知る必要があること、どこでどのようにして問題の解決につながる新しい情報を得ることができそうなのかを把握していきます。この学習の過程を促したり導いたりするためには、従来型の PBL ではチューターと呼ばれていた教員の役割が極めて重要になります。

扱う領域によって、詳細な手順はある程度は異なっていることも多いのですが、PBL は非常に系統だった手法に従いながら問題の解決を行うことが一般的です。以下は、典型的な例の1つです。

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Figure 3.5.3.3 (derived from Gijeselaers, 1995)
図3.6.3.2  Gijeselaers (1995)より作成

マーストリヒト方式によるPBLチュートリアルのための7つのステップ

  1. 概念を明確にする
  2. 何が問題なのかを定義する
  3. 問題について分析や議論を行う
  4. 想定できる説明方法や解決方法を特定する
  5. 課題や学習目標を設定する
  6. 解決方法について調査する
  7. 結論、解決方法、内省を統合する

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これまで、最初の5つのステップでは、20人から25人という小規模な対面授業による指導形式がよく採用され、6つ目のステップでは個人や4〜5人の学習者によるグループでの授業外での学習が必要とされ、7つ目のステップでは教員も交えて、全員で集まって達成されてきました。しかしこのような手法はブレンド型の学習にも適しています。というのは6つ目のステップ、すなわち「解決方法について調査する」ことについて、主にオンラインで行うのです。教員によっては、同期型のWeb会議と、非同期型のオンラインディスカッションを使い、全ての学習過程をオンラインで運営する人もいます。

問題解決型学習のカリキュラムを完成させるためには大変な労力が必要です。まずはテーマとする問題を注意深く選定し、勉強が進むうちに少しずつ複雑さや難しさが増えていくようにしなくてはならないからです。さらにカリキュラムに必要な要素の全てを含むような形で、問題を選定しなくてはなりません。多くの場合、問題解決型学習は学習者も難しいと感じます。いくつかの問題を解決するために必要な基本的な知識基盤が整っていない初期の段階では特に顕著です。この状況を表すため「認知的過負荷」という用語がよく使われてきました。したがって同じトピックを扱う場合であっても、講義の方がより迅速で内容が凝縮された形で扱うことができるという主張もあります。

評価についても注意深い検討が必要です。とりわけ、最終試験が成績評価の大きな割合を占めている場合には、内容を漏れなく取り扱えているかだけではなく、問題解決ができるスキルも評価しなければなりません。

しかし Strobel and van Barneveld, 2009 のような研究では、問題解決学習が学習者の学習意欲を高めるばかりでなく、学習内容を長期的に記憶しておくことや「再現可能」なスキルを発達させることにも長けていることが分かっています。現在では「純粋」な PBL の手法には多くのバリエーションがあります。例えば題材とする内容について、まずは講義や事前の講読課題など、どちらかと言えば伝統的な方法で扱った後に、解決すべき問題を設定していくといった形式です。

3.6.3.3 事例に基づく学習

事例に基づく教授法では、学習者は複雑な現実世界のシナリオについて読んだり議論したりすることで、分析的に思考し、それを基にした判断を下すスキルを発達させることができる。

University of Michigan Centre for Research on Teaching and Learning

事例に基づく学習は時として PBL の変形版とみなされますが、それ自体が一つの設計モデルであると考える場合もあります。事例に基づく学習では PBL と同様、あらかじめ用意された探究課題に沿った学習が用いられます。しかし通常、学習者には事例を分析する際に援用できる知識をある程度、事前に持っていることが必要とされています。また、事例に基づく学習という手法は、PBL よりも柔軟であることが一般的です。事例に基づく学習は、経営教育、法学教育、医療臨床業務において特によく見られますが、その他の分野においても使うことができます。

Herreid(2004) は事例に基づく学習について、11の基本的なルールを示しています。

  1. ある物語が述べられていること
  2. 興味関心を引く問題に重点を置いていること
  3. 過去5年間の事例が設定されていること
  4. 物語の主人公への共感が作り出されていること
  5. 主人公の実際の発言がそのまま含まれていること
  6. 学習者に関連があること
  7. 教育的に有益な内容であること
  8. 意見の不一致を引き起こす内容であること
  9. 何らかの結論を出す必要があること
  10. 普遍的であること
  11. 簡潔であること

また、医療における臨床業務の例を用いて、Irby (1994) は事例に基づく学習の5つのステップを推奨しています。

  • 注意深く選ばれた事例に軸足を置いて教育する。
  • その事例について議論し、分析し、助言をすることに積極的に学生が関わることができる。
  • その事例について学習者と議論をする際には、専門家としての思考や行動のモデルを示す。
  • ディスカッションの中で、指示やフィードバックを与える。
  • 全ての意見が尊重される協働的な学習の環境を作る。

事例に基づく学習は「正しいか、誤っているか」というような明確な解決策がない、複雑で分野をまたぐトピックや問題を扱う場合や、学習者が相反する説明のどちらかを評価して決定しなければならない場合に、特に役に立ちます。さらに事例に基づく学習は、ブレンド型での学習環境でも、完全なオンライン学習環境でも、いずれもうまく機能するでしょう。Marcus, Taylor and Ellis (2004) では獣医学の分野で、事例に基づく学習のプロジェクトをブレンド型で行うにあたり、次のような設計モデルが用いられました。

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Figure 6. Blended learning sequence involving online learning resources , Marcus, Taylor and Ellis, 2004

図3.6.3.3 オンライン学習教材を含むブレンド型学習の一連の流れ

(図中、左から順に「2〜4時間の講義」「2時間の実技」「少人数グループによる2時間のオンライン事例研究」「2時間の事例まとめ」)

(Marcus, Taylor and Ellis, 2004)

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もちろん、扱うテーマが必要としているものに応じて、その他の構成にすることも可能です。

3.6.3.4 研究課題に基づく学習

研究課題に基づく学習は、事例に基づく学習によく似ていますが、それよりも長期間であり、広範囲に及ぶ傾向があります。また、サブトピックを選んだり、作業を準備・計画したり、研究課題を実行する方法を決めたりするという点で、より学習者の自主性や責任が伴うものになります。一般的に研究課題は現実世界の問題に基づいて作られるものです。そのため学習者は責任感や当事者意識を持って学習活動を行うことができるのです。

同様に、研究課題に基づく学習をうまく行うための適切な実践方法や運用基準がいくつかあります。例えば、Lamer and Megendoller (2010) では、良い研究課題について、以下の2つの基準を満たしていると主張しています。

  • 学習者がその作業について、自分にとって意味があり、重要であり、うまく行いたい課題であると認識していること。
  • 有意味な研究課題は教育上の目標を完全に満たしている。

研究課題に基づく学習の主なリスクとしては、その研究課題の動きをコントロールできなくなり、学生だけでなく教員さえも必要不可欠な学習目標を見失ってしまうことや、重要な内容領域が抜け落ちてしまう恐れがあることです。したがって、研究課題に基づく学習には、教員の入念な計画と監督が求められます。

3.6.3.5 探究に基づく学習

探究に基づく学習 (inquiry-based learning) は、研究課題に基づく学習と共通しているところもありますが、教員の役割が少し異なっています。研究課題に基づく学習では、教員があらかじめ「研究推進のための質問」を用意しておき、学習過程の中で学習者を導いていくという積極的な役割を果たします。一方、探究に基づく学習では、必要があれば教員に手助けや指導を求めることができますが、学習者自らがあるテーマについて調べて研究したいトピックを選び、研究計画を練り、結論まで向かうことになります。

Banchi and Bell (2008) は、以下に示すように、探究には異なるレベルがあり、学習者は最初のレベルから始め、その他のレベルを経て「真の」あるいは「開かれた」探究のレベルへと到達する必要があると述べています。

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Figure 3.5.3.5 Inquiry-based learning, adapted from Banchi and Bell (2008)
図3.6.3.5 事例に基づく学習の各レベル (Banchi and Bell, 2008 より)

タイトル:探究に基づく学習のレベル

左端:教員の関与の高低

  1. 確認のための探究 → 先行知識を強化する
  2. 構成された探究 → 学習者は決まった手順に従う
  3. 導かれた探究 → 調査したい疑問点のみが与えられる
  4. 開かれた・真の探究 → 全てを学習者が行う

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上図から分かるように、最後のレベルは大学における卒業論文の作成過程の特徴を表していると言えます。しかし探究に基づく学習では、この段階の探究は全ての校種において意義があると主張されています。

3.6.4 オンライン学習環境における経験的学習

経験的学習の支持者はオンライン学習に対して、強く批判的であることが多いです。オンラインでは学習を現実世界の事例に埋め込むことができないというのです。しかしこれはオンライン学習の捉え方を単純化しすぎています。経験的学習の支援や促進のためのオンライン学習を効果的に利用できる状況は十分に考えられます。例えば以下のような状況です。

  • ブレンド型学習または反転学習:学習開始時と、問題や研究課題を結論に導く時だけ、教室や実験室で対面式でのグループ単位の集合教育を行う。これら以外の時には、学習者はオンライン上で資料にアクセスしたり、レポートやプレゼンテーションを作成するためのマルチメディアを利用したりできる。また、グループで行う研究課題や、お互いの作業を批判検討するという共同作業によって、研究や情報収集をさらに行うことができる。
  • 完全オンライン学習:Web会議のような同期的ツールや、グループワークの際のディスカッション・フォーラムまたはソーシャル・メディアのような非同期的ツール、レポート作成のためのeポートフォリオやマルチメディア、実験作業をするためのリモート・ラボを組み合わせることにより、経験的学習であっても完全オンライン学習で実現できると考える教員が増えつつある。

実際、現実世界での経験的学習が実行不可能である、危険すぎる、費用がかかりすぎるというような状況もあります。オンライン学習であれば、実際の状況をシミュレーションしたり、ある技能を習得する時間を短縮したりするのに役立てることができます。フライト・シミュレーターは長きにわたって民間航空会社のパイロットの訓練に使われており、訓練中のパイロットが基本的な事柄を習得するために実機に乗らなければならない時間を減らすことを可能にしています。旅客機のフライト・シミュレーターを構築して運用するには、現在でも非常にコストがかかります。しかし、最近では本物に近いシミュレーションを作るコストが以前よりも劇的に下がっています。

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Figure 3.5.3.5 Virtual world border crossing, Loyalist College, Ontario
図3.6.4 仮想現実世界での国境検問所通過 ロイヤリスト・カレッジ(オンタリオ)

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ロイヤリスト・カレッジの教員たちは、カナダ国境サービス庁職員の研修を行うため、オンライン・ゲームである「セカンド・ライフ」の中に、本物と全く同じように機能する「バーチャルな」国境検問所と自動車を作りました。学生のそれぞれが検問所の職員役として自分のアバターで、カナダへの入国を希望する旅行者役のアバターに質問をします。全てのやり取りはセカンド・ライフ上での音声通信を利用します。旅行者役は学生の中から選ばれ、別の部屋で演じることになります。1人の学習者は3人〜4人の旅行者に国境通過検問を行います。そしてクラス全体でそのやり取りを観察して、やり取りが行われている状況や応答の仕方について議論をします。また、別に設けられた自動車検査のためのサイトでは、完全に分解できる仮想的な自動車を扱っています。これによって学生は密輸品が隠されうる全ての場所について学ぶことができるわけです。

そしてロイヤリスト・カレッジ内の自動車店に実際に出向いて、本物の車で検査を実践してみることで、このような学習が強化されることになります。税関や入国審査官の職に就く学生は最終成績評価のひとつとして、尋問の技術が評価されることになります。「セカンド・ライフ」上での国境検問所シミュレーションを利用した最初の年の学生は、それを使わなかった以前のクラスよりも28パーセント高い成績を収めました。2年目のクラスはさらに9パーセント高い成績を収めることとなりました。詳細についてはこちらから見ることができます。

ブリティシュ・コロンビア州立司法学校の危機管理教育部門のスタッフは、Praxisというシミュレーションを開発しました。現実世界のシミュレーションを訓練プログラムに導入することで、扱う緊急事態は現実味を帯びたものなります。Praxis には Web 経由で参加できることから、 体験的で双方向性のあるシナリオに基づいた訓練を、時と場所を選ばずに実施できるという柔軟性があります。典型的な緊急事態の中には、危険な化学薬品を貯蔵している倉庫での大きな火事があります。このようなシナリオでは例えば、消防、警察、救急隊員、役所の技術職員の「訓練生」となる初期対応者が、自分の携帯電話やタブレットで模擬通報を受けます。そして教わった手順に従いながら、また、その手順を自分の携帯端末で参照しながら、熟練したファシリテータが操作する素早い展開のシナリオにリアルタイムで対応することが求められます。全てのプロセスは記録され、後で対面での報告会が行われます。

繰り返しになりますが、ほとんどの場合、教育の設計モデルは、ある特定のメディアに依存しているわけではありません。このような知識の移転は様々な配信方法を用いて、容易に行うことができます。実践によって学ぶことは、デジタル時代に必要なスキルの多くを発達させるために重要な方法の1つなのです。

3.6.5 経験的学習モデルの長所と短所

経験的学習の様々な設計をどう評価するかは、どのような認識論的立場をとるかによっても変わります。構成主義者ならば経験的学習を強く評価するでしょう。客観主義の強力な信奉者であれば、経験的学習のアプローチに対して非常に懐疑的になることが多いでしょう。にもかかわらず、問題解決型学習は科学や医学を教える多くの教育機関で非常に一般的です。また、研究課題に基づく学習は多くの分野や校種をまたいで使われています。経験的学習が適切に用いられれば、学生の興味を引きつけることができ、より長期にわたって学習した内容を記憶しておくことにつながるという証拠が得られています。経験的学習の支持者は、より深い理解が促され、問題解決、批判的思考、より良いコミュニケーション・スキル、知識マネジメントのようなデジタル時代に必要なスキルを発達させることができると主張しています。とりわけ経験的学習によって、学習者は分野の範疇を超えた非常に複雑な状況や、知識の及ぶ範囲を制御しづらい内容領域に対処することができるようになるのです。

その一方で、Kirschner, Sweller and Clark (2006) のように、経験的学習における指導は、往々にして「無誘導な」ものであるという批判的な主張もあります。また、PBL の効果についての「メタ分析」の結果がいくつか示されています。それらによれば PBL を行なっても問題を解決する能力に変化はなく、基本的な科学の試験の得点も低く、勉強時間は PBL で学んだ学生の方が長く、PBL の方が失うものが大きいというのです。Kirschner, Sweller and Clark (2006) は次のように結論づけています。

統制された研究からの全ての証拠を見る限り、初級〜中級の学習者を教える時、構成主義に基づいて指導を最小限にするよりも直接的にしっかりと指導する方が良いことを示している点でほとんど一致している。かなりの背景知識を持っている学習者に教える場合であっても、学習に際してきちんと指導することが、明示的な指導を行わない手法と同様の効果であるという場合がほとんどである。

経験的学習の手法でカリキュラム内容をもれなく扱うようにするためには、教え方の再構成と詳細な計画立案を十分に行う必要があります。つまりそれは多くの場合、教員研修を大規模にやり直し、注意深く説明を行ない、学習者に対する準備をしてもらうようにしなくてはならなくなるということです。学習者に現実世界に即したタスクを与えるだけで、指導も支援もすることがなければ効果は見込めないとするKirschner et al. (2006) はその通りだと言えるでしょう。

とは言え、経験的学習の多くの形態において、教員からの強い指導は行われ得るものであり、実際にも行われています。また、経験的学習とそうでない学習を行った学習者を比較する場合、効果測定のために行う知識を測るテストでは、経験的学習のみで育成されるスキルを測る問題を含めるよう注意しなくてはなりません。記憶と理解に大きく偏りがちな伝統的な方法と同じような測定方法に基づくものになっていてはいけないのです。

ここまでの議論を考慮すると、デジタル時代に必要な知識とスキルを伸ばすために経験的学習を利用することには賛成です。しかし当然のことながら、その設計モデルと結びつけた最適な実践方法に従いながらうまく行われなくてはならない、ということを主張しておきたいと思います。

アクティビティー3.6 経験的学習の設計モデルを評価する

  1. 経験的学習を実践したことがありますか。その時、何がうまくいって、何がうまくいきませんでしたか。
  2. 問題解決型学習、事例に基づく学習、研究課題に基づく学習、探究に基づく学習には大きな違いがあるでしょうか。あるいは同じ設計モデルに基づきながらも少しずつ異なっているという程度にすぎないのでしょうか。
  3. 上の2.に挙げた学習形態モデルのうちでは、どれか1つだけが良いと考えますか。もしそうであれば、なぜですか。
  4. 経験的学習は、教室や実地で行うのと全く同様に、オンライン上でもうまく行うことができるという点に賛成ですか。もしそうでないなら、オンラインでは再現できない経験的学習で、対面で行うことにこそ「独自性」があるというものは何がありますか。例を挙げてください。
  5. Kirschner, Sweller and Clark (2006) は問題解決学習を強く批判しています。当該論文を全て読み、その結論に理解を示せるかどうか考えてください。もし賛成できないようであれば、その理由も考えてください。

参考文献

Banchi, H., and Bell, R. (2008). The Many Levels of Inquiry Science and Children, Vol. 46, No. 2

Dewey, J. (1938). Experience & Education. New York, NY: Kappa Delta Pi

Gijselaers, W., (1995) ‘Perspectives on problem-based learning’ in Gijselaers, W, Tempelaar, D, Keizer, P, Blommaert, J, Bernard, E & Kapser, H (eds) Educational Innovation in Economics and Business Administration: The Case of Problem-Based Learning. Dordrecht, Kluwer.

Herreid, C. F. (2007). Start with a story: The case study method of teaching college science. Arlington VA: NSTA Press.

Irby, D. (1994) Three exemplary models of case-based teaching Academic Medicine, Vol. 69, No. 12

Kirshner, P., Sweller, J. and Clark, R. (2006) Why Minimal Guidance During Instruction Does Not Work: An Analysis of the Failure of Constructivist, Discovery, Problem-Based, Experiential, and Inquiry-Based Teaching Educational Psychologist, Vo. 41, No.2

Kolb. D. (1984) Experiential Learning: Experience as the source of learning and development Englewood Cliffs NJ: Prentice Hall

Larmer, J. and Mergendoller, J. (2010) Seven essentials for project-based learning Educational Leadership, Vol. 68, No. 1

Marcus, G. Taylor, R. and Ellis, R. (2004) Implications for the design of online case-based learning activities based on the student blended learning experience: Perth, Australia: Proceedings of the ACSCILITE conference, 2004

Moon, J.A. (2004) A Handbook of Reflective and Experiential Learning: Theory and Practice New York: Routledge

Strobel, J., & van Barneveld, A. (2009). When is PBL More Effective? A Meta-synthesis of Meta-analyses Comparing PBL to Conventional Classrooms. Interdisciplinary Journal of Problem-based Learning, Vol. 3, No. 1

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