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多くの調査研究から、教員の過半数が依然としてオンライン学習や遠隔教育はそもそも質的に対面型授業より劣っていると信じていることが分かっています。(例えばJaschik and Letterman, 2014)しかし、この意見を裏付ける科学的根拠のある証拠はありません。証拠では一般的に有意差がないことが指摘されており、一方でブレンド型学習あるいはハイブリッド学習が、学習成果の点で対面型教育よりも優れていることを示しています。
9.2.1 オンライン学習における遠隔学習の影響
私たちは遠隔教育のこれまでの発展から多くを学ぶことができます。使っているテクノロジーは異なりますが、完全オンライン学習は、結局のところ単なる遠隔教育の一形態なのです。
Wedemeyer, 1981; Peters, 1983; Holmberg, 1989; Keegan, 1990; Moore and Kearsley, 1996; Peters, 2002; Bates, 2005; Evans et al., 2008 など、遠隔教育については多くの研究が行われてきました。しかし概念的な考え方は非常に単純です。学生は自分の好きな時間に好きな場所(自宅、職場、または学習センター)で、教員と直接会うことなく勉強します。しかし今日ではインターネットによって、学生は、学習の補助と評価をする教員、補助教員、チューターと「つながって」いるのです。
遠隔教育はかなり昔からあります。聖パウロによる「コリント人への手紙」はキリスト教における初期型の遠隔教育と考えられています(西暦53 – 57年)。最初の遠隔教育による学位は1858年にイギリスのロンドン大学が授与しました。学生は読書のリストを郵送され、通常のキャンパスの学生と同じ試験を受けました。学生に経済的余裕があれば、彼らは家庭教師を雇いました。ヴィクトリア朝時代の作家、チャールズ・ディケンズは遠隔教育を「人民の大学」と呼びました。それほど豊かでない階層の人々に高等教育を提供できたからです。このプログラムは今でも続いていますが、現在 University of London International Programmes, と呼ばれ、世界中に5万人以上の学生がいます。
北米では歴史的に、ペンシルベニア州立大学、ウィスコンシン大学、米国のニュー・メキシコ大学、カナダのメモリアル大学、サスカチュワン大学、ブリティッシュ・コロンビア大学など、多くの初期の州立大学が州域全体の教育を担っていました。その結果、これらの教育機関は、主に州全体に分散している農家、教員、および医療専門家のための成人教育としての遠隔教育プログラムを長らく提供してきました。これらのプログラムは現在、学部生および職業人向け修士課程の学生にも拡張されています。そしてオーストラリアはK-12(幼稚園から高等学校まで)と中等後教育の両方で歴史と実績を持っています。
これらの大学から受けた資格は概ね、キャンパスでの学位と同じ扱いを受けています。例えば、1936年から遠隔教育プログラムを提供してきたブリティッシュ・コロンビア大学は、遠隔で受講したコースとキャンパスで受講したコースの間の学生の成績証明書を区別しません。なぜなら、どちらのコースも同じ試験をしているからです。
1970年代にイギリスのオープン大学が採用し、その後、遠隔教育プログラムを提供している北米の大学でも取り入れられるようになった遠隔教育のコース設計における別の観点からの特徴として、遠隔教育を受ける学習者に特化した ADDIE モデルを取り入れたことが挙げられます。これは明確な学習成果、質の高いマルチメディア教材の制作、計画された学習者の活動と関与、そして距離に負けない強力な学習者サポートに重点を置いています。結果として遠隔教育プログラムを提供している大学では、1990年代にはオンライン学習に移行するための準備が整っていました。これらの大学では一般に、オンライン・プログラムを受講する学生は、キャンパスでの学生とほぼ同じくらいの能力を発揮します。(しかしコース修了率は通常の通学生の5〜10%以内でした。(Ontario, 2011 参照) 遠隔学生はフルタイムの仕事や家族を持つことが多いにしても、この数字はやや驚くべきことです。)
国際的に認められた、質の高い教育機関で長年行われてきた遠隔教育に価値を認めることは非常に重要です。なぜなら、特にアメリカに多い商業的なディプロマ・ミル(学位を乱発する学問水準の低い教育機関)が、遠隔教育の評判を汚しているからです。全ての教育と同様に、遠隔教育は上手にも下手にもできます。しかし、遠隔教育が専門的に設計され、質の高い公的教育機関によって提供されており、多くの社会人や遠隔地在住で全日制課程に通学することが困難な学生のニーズ、通学生でも現在の授業と重ならないようにしながらさらに多くの科目を履修したいという学生のニーズ、アルバイトの都合が講義のスケジュールに合わないという学生のニーズなどに応えている場合は、非常に上手く機能していることが分かっています。どんな教育機関でも、遠隔教育の成功は、高品質の設計基準を満たすことによってのみ実現されるのです。
同時に、遠隔教育とは無関係にオンラインまたはコンピュータ支援による学習で優れた実践事例を開発してきた、小規模ながらも非常に影響力のあるキャンパス型の教員もいました。1970年代後半には、ニュー・ジャージー工科大学でオンライン教育やブレンド型教育を試していた Roxanne Hiltz や Murray Turoff、オンタリオ教育研究所の Marlene Scardamalia や Paul Bereiter、サイモン・フレーザー大学の Linda Harasim などは、特にキャンパス内や学校環境内でのオンライン協働学習および知識構築に焦点を当てていました。
残念ながらその一方では、オンライン学習に不慣れな多くの学校や大学の教員がこのような優れた実践を採用しておらず、単に講義型の授業をブレンド型学習やオンライン学習に転用するだけで済ませてしまい、不満足あるいは破滅的な結果を招いてしまったという証拠も数多くあります。
9.2.2 研究から分かること
テレビ講義、コンピュータを使った学習、オンライン学習などの様々なテクノロジーを利用した教育と、対面型の教授を比較したり、対面型の教育と遠隔教育を比較したりする研究は、これまで何千と行われてきました。オンライン学習に関しては、いくつかのメタ研究があります。メタ研究とは、多くの「正しく行われた科学的な」研究結果を組み合わせたもので、通常は一致比較または準実験的方法による研究結果を組み合わせたものです。 (Means et al., 2011; Barnard et al., 2014) そのような「正しく行われた」メタ研究のほとんど全てにおいて、学生の学習や成績への影響という点では、教授法間の差異がない、もしくは有意差はほとんどないと結論付けています。例えば、Means et al. (2011) は、アメリカ教育省向けの大規模なメタ研究で、ブレンド型学習やオンライン学習について、以下のように報告しています。
オンラインと対面型指導のブレンド型授業と、従来の対面型授業を比較している最近の実験的および準実験的研究では、より効果的なのはブレンド型学習であり、ブレンド型の手法を設計・実施するために必要な努力の合理的根拠を説明している。単独で利用される場合、オンライン学習は従来の教室での指導と同じくらい効果的であるように見えるが、さほど効果的ではない。
Means et al. は、ブレンド型学習のパフォーマンスがやや向上している理由は、学生が課題により多くの時間を費やしているからではないかと考えています。これは成果に何らかの違いがみられた場合、配信方法の違い以外のことに原因があるというこれまでの知見と合致しています。Tamim et al. (2011) は40年に渡る「よく行われた」比較研究を検証しました。Tamim et al. は、テクノロジーを使って学習した学生は、使わなかった学生に比べて多少良い成績を上げていると述べています。しかし統計的には差はなく、このように述べています。
テクノロジー利用の有無よりも、教育の目的、教員の質、科目の特性、学生の年齢、テクノロジー導入の度合い、そしておそらくその他の要因のほうがもっと大きな影響を与えたと議論できる。
あらゆる種類の学習を研究することは容易ではありません。どのような状況においても学習に影響を与える、様々な変数や条件がたくさんあります。私たちが検討しなければいけないのは、テクノロジーの使い方ではなく、たくさんある変数そのものなのです。言い換えると、Wilbur Schramm が1977年という早い時期に投げかけた質問を考えなければならないのです。
どのメディアがどの学習方法に最も効果的か、それはどんな条件下でなのか。
配信方法を決めるという意味においては、どれが最高の方法かを考えるのではなく、「対面型・ブレンド型・完全オンラインのそれぞれを使う最も適した条件とは何か」を考えるべきなのです。
幸いなことに、少なくともブレンド型学習とオンライン学習に関しては、方向性を決定する多くの研究と優れた実践事例があります。(例えば、Anderson, 2008; Picciano et al., 2013; Halverson et al., 2013; Zawacki-Richter and Anderson, 2014参照。) 皮肉なことに不十分なのは、デジタル時代において「オンラインでも多くのことができるけれども、対面式に独特である教育の可能性」についての優れた研究なのです。
9.2.3 対面型教育の優位性とは何か
学生の学習への貢献という点で、オンライン学習と対面型教育のどちらが優れているかについて、ほとんど決着がつかない研究が数多く行われてきましたが、ブレンド型学習という文脈で、何をオンラインで行い、何を対面型で行うべきかについて考えたり、どんな状況では完全オンライン学習の方が対面型授業よりも優れているのかについて考えたりするための根拠や理論は、ほんのわずかですが全くないというわけではありません。一般的に対面型教育は優勢であるという特徴のため、標準的に選ばれるものになっており、オンライン学習は対面型学習が困難な場合、例えば、学生が通学できない場合や、学生数が多すぎて学生同士のインタラクションがほんのわずかしかできない時にのみ利用されると考えられてきました。
しかしオンライン学習は現在非常に多くの場面で多用されており、効果的になっているので、このように問うべき段階にあります。
オンライン学習と教育的に異なる、対面型教育の独特の特徴とは何か。
対面型授業に関して、教育的な特徴は何もないとする考え方ももちろん可能ですが、「キャンパスの魔法」(Sarma, 2013)といううまい表現や、選ばれた者だけが受けることができるキャンパスでの授業が非常に高額であること、そしてキャンパス型の教育への公共投資コストが高いという意味において、なぜ対面型の教育は特別なのかというような、証拠に基づいた理論があってしかるべき時がきています。このことは9.6節でさらに議論されます。
ひとまず、対面型・ブレンド型・オンラインという配信方法の選択について議論を進めていきましょう。
アクティビティー9.2 「キャンパスの魔法」を定義する
1. 「キャンパスの魔法」を定義できますか。オンライン教育と比べて、対面型教育の良いところは何でしょうか。最も大切な点を3つ書き出してみましょう。
2. 同じことがオンライン教育でできるでしょうか。できない場合、キャンパスの優位性とは何ですか。
参考文献
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Halverson, L. R., Graham, C. R., Spring, K. J., & Drysdale, J. S. (2012). ‘An analysis of high impact scholarship and publication trends in blended learning’ Distance Education, Vol. 33, No. 3
Holmberg, B. (1989) Theory and Practice of Distance Education New York: Routledge
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Schramm, W. (1977) Big Media, Little Media Beverley Hills CA/London: Sage
Sarma, S. (2013) The Magic of the Campus Boston MA: LINC 2013 conference
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Wedemeyer, C. (1981) Learning at the Back Door: Reflections on Non-traditional Learning in the Lifespan Madison: University of Wisconsin Press
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