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2.4.1 認知主義とは何か

行動主義に対する批判としてすぐに思いつくのは、人間をブラックボックスとして扱っていること、つまりブラックボックスへのインプットと、そこからのアウトプットは分かっていて測定もできる。しかしその中で何が起きているかについては無視されてしまい、関心さえ向けられていないということです。しかし人間は、意識的に考え、決定し、感情を持つことができますし、社会的な対話を通じて考えを表明することもできます。このような能力は全て、学習にとって大きな意味を持っています。したがって、もしもブラックボックスの中で何が起きているかを明らかにしようとするならば、学習についてもより良い理解を得ることができるでしょう。

このため認知主義の立場に立つ者は、人間の内部で起こること、つまり世界をどのように解釈するかについて内側に向けて意識していくことが人間の学習を理解するために欠かせないと考え、これを明らかにすることに焦点を当ててきました。

Fontana (1981) は、学習に対する認知主義的アプローチを次のようにまとめています。

「認知主義的アプローチは、観察可能な行動だけで学習を理解しようとしてはいけないとする立場である。むしろ経験に基づいて再構築した心理的世界(例えば学習者自身の中にある概念や記憶など)を学習者自身が持っていることにも注意する必要があると捉えている。つまり、一人一人が置かれた環境に重点を置くだけでなく、それをどのように解釈し、そこにどのように意味を読み取ろうとしているかに重点を置くのである。そして、一人一人を置かれた環境の中で機械的に作られたようなもののように捉えるのではなく、自ら積極的に学習を進めていく動作主として、外界から自己に流れ込んでくる情報の嵐を、よく考えながら意識的に処理し、分類していこうとすると考える立場なのだ。」(p.148)

つまり、新たな情報を処理する際のルールや原理、これらをどのように関係付けるかについての探求や、既存の知識と新しい知識の間でうまく調和する意味や一貫性の探求が、認知主義的心理学で重視されるコンセプトなのです。認知主義的心理学が関心を向けているのは、学習や思考、行動に影響を与える内的な過程や、その内的な過程に影響を与える状況がどのようなものなのかを見つけ、記述するということに関心を向けています。

2.4.2 認知主義的学習理論

教育において最も広く用いられている認知主義的理論は、学習目標に関するブルームのタキソノミー(分類法)(Bloom et al., 1956)に基づいています。これは様々な学習スキルの発達、すなわち学習方法に関するものでした。ブルームと彼の研究グループは、学習には次の3つの重要な領域があることを主張しました。

  • 認知的領域(思考)
  • 情意的領域(感情)
  • 精神運動的領域(行動)

認知主義は「思考」の領域に焦点を当てます。最近では Anderson and Krathwol (2000) が Bloom et al. のタキソノミーを若干修正し、新たな知識の「創造」を加えています。

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図2.4.1 認知的領域 図: © Atherton J S (2013) CC-NC-ND
図2.4.1 認知的領域
図: © Atherton J S (2013) CC-NC-ND
【上から「創造 評価 分析 適用 理解 記憶」 説明文「Anderson and Krathwol (2000)による認知領域の修正タキソノミー」】

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Bloom et al.は、学習には階層があることも主張しました。つまり学習者は、記憶から評価、そして新たな知識の創造まで、各段階を経ながら成長していく必要があるということです。

一連の内的作用の土台となるものは何なのか、心理学者はそれぞれの認知的活動を深く探求していきました。その結果、研究はますます還元主義的になってきています。(図2.4.2 参照)

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図2.4.2 © Faizel Mohidin, UsingMindMaps, 2011
図2.4.2  © Faizel Mohidin, UsingMindMaps, 2011
中央 「認知領域」
第1レベル(右上から時計回り)
第2レベル(上から順)
第3レベル(-第4レベル)
知識:想起する/データ/情報/事実/概念
理解:意味を理解する/説明する-自分の言葉で/比較する
応用:知識を使う/適用する-新しい状況に/解決する-問題を
分析:分析する/質問する/比較する/分解する-部分に
統合:自身の構造/新たな意味/新たなパターン/要素を結合する
評価:選択する-一番良いもの/擁護する-原則/判断する-価値

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2.5.3 認知主義的学習理論の応用

学習に対する認知主義的アプローチでは、総合的理解、抽象化、分析、統合、一般化、評価、意思決定、問題解決、創造的思考に重点を置いているために、行動主義と比べた場合、より高等教育に適しているように感じられます。しかし初等・中等教育においても認知主義的なアプローチを導入することで、例えば学習者自身が学ぶ方法を教えること、将来の学習に向けた一層強力で新しい心的プロセスを明らかにしていくこと、そして概念や見解への理解が深く変化していくものであることを明らかにしていくことなどに重点を置くことに繋がるでしょう。

学習に対する認知主義的アプローチは非常に広い範囲を網羅しています。客観主義的な考えに近い認知主義者は、基本的には内的過程を遺伝的や先天的なものと捉えますが、それらは新たな経験のような外的な要因によって訓練したり修正したりできるものと考えています。特に、初期の認知主義では、人の思考をコンピュータにたとえることに関心を持っていました。最近では、脳科学研究が認知と脳内の神経ネットワークの発達・強化を結びつける研究を先導しています。

実践的な見地では、人間の思考をコンピュータにたとえるという考え方から、テクノロジーを基盤とした教育上の開発事例に応用されています。例えば次のようなものです。

  • インテリジェント・チュータリング・システム:より洗練されたティーチング・マシンで、管理に適した大きさのステップに学習を切り分け、学習者の反応を分析することで次の最適なステップへ誘導することが土台になっています。このような進化の最新の到達点にはアダプティブ・ラーニングがあります。
  • 人工知能 :人間の学習に使われる内的な過程を、コンピュータ・ソフトウェア上で表現することを狙うものです。(もちろん、これがうまくいけばコンピュータが多くの人間活動の代わりになるでしょう。もし学習を客観主義的な枠組の中でとらえるのであれば、教育もコンピュータに置き換えられる活動の1つとなりえます)
  • 事前決定された学習成果:総合的理解、分析、演繹、評価のような多種多様な認知的活動の綿密な研究と発展に基づくものです。
  • 問題解決型学習:問題解決に長けた人が用いている思考の過程の分析に基づきます。
  • インストラクショナル・デザイン:あらかじめ決定された学習成果や学習目標を達成するために、教育をうまく設計しようとするアプローチです。

認知主義者たちは、人間が新しい情報をどのように処理し、意味あるものとして受け止め、どのように我々が知識を入手し、解釈し、その全体をまとめ上げ、処理し、体系化し、管理しているのかといったことについて理解を深めており、また、学習者の心理状態に影響するような条件をより良く理解できるようにしてくれています。

アクティビティー2.4 認知主義の限界を明確にする

1. 認知主義的な手法によって「教育」し、あるいは学習することがもっとも適切なのは、どのような知識領域でしょうか。

2. 認知主義的な手法では適切な教育を行うことができないのは、どのような知識領域でしょうか。

3. それぞれの理由についてあなたの意見を述べてください。

参考文献

Anderson, L. and Krathwohl, D. (eds.) (2001). A Taxonomy for Learning, Teaching, and Assessing: A Revision of Bloom’s Taxonomy of Educational Objectives New York: Longman

Atherton J. S. (2013) Learning and Teaching; Bloom’s taxonomy, retrieved 18 March 2015

Bloom, B. S.; Engelhart, M. D.; Furst, E. J.; Hill, W. H.; Krathwohl, D. R. (1956). Taxonomy of educational objectives: The classification of educational goals. Handbook I: Cognitive domain. New York: David McKay Company

Fontana, D. (1981) Psychology for Teachers London: Macmillan/British Psychological Society

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